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名古屋高等裁判所 平成4年(ラ)92号 決定 1992年11月10日

抗告人

中野進

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及びその理由は別紙のとおりである。

二一件記録及び当裁判所に顕著な事実によると、抗告人は、抗告人を原告、株式会社大京他一名を被告とする原審平成元年(ワ)第五八号損害賠償等請求事件の平成二年一〇月二九日の第一三回口頭弁論期日(以下「本件口頭弁論期日」という。)において抗告人の平成二年九月三日付けの準備書面(以下「本件準備書面」という。)が陳述されたはずであるのに、右期日の口頭弁論調書(以下「本件口頭弁論調書」という。)にはその旨の記載がなされておらず、却ってそれが陳述されなかったことを示す「不陳述」の印が本件準備書面に押されている、ということを理由として、右損害賠償等請求事件についての第一審(平成二年一二月一七日)及び控訴審(平成三年八月七日)の各判決言渡し並びに控訴期間の徒過に伴う控訴審判決の確定後である平成四年八月一二日、原審に対し、本件口頭弁論調書を、本件準備書面が本件口頭弁論期日に陳述された旨の記載のあるものに更正することを求める旨の「口頭弁論調書更正申立書」と題する書面を提出したこと(以下右の書面提出による申立てを「本件申立て」という。)、これに対して原審は、同月三一日、本件申立ては不適法であるとしてこれを却下したこと、が認められる。

ところで、口頭弁論調書の記載内容に不服のある関係人(以下「当事者」ともいう。)は、まず民訴法一四六条二項所定の異議を述べることができるが、同法の規定内容等に照らすと、右の異議は当該調書作成後の最初の口頭弁論期日に述べなければならないものと解されるところ、本件申立てを同項に基づく異議の申立てと見た場合、それは既に右に述べた異議申立て期間を徒過した後になされたものであることが明らかであるから、不適法な申立てというべきである。しかし、右の異議を述べることができなくなった後においても、民訴法が当事者に対して調書の記載について読聞け、閲覧の申立権を認め、また、右のような異議を述べる権利を認めている上、記録閲覧権等をも保障していること及び調書の記載が真実に合致するとの推定を受けることにより当事者の利害に密接な関係を有することに鑑みると、当該調書を作成した書記官及びその認証者である裁判長(裁判官)が職権により調書を真実なものに訂正することができる外、当事者にも調書の更正申立権を認めるべきものと解される。そして、本件申立てを右に述べた更正申立てと見ることは十分可能である。しかしながら、そのような調書更正の申立ても、時期的に無制限なものとして認められるとは到底考えられない。即ち、調書の作成及びその認証が当該書記官と裁判長(裁判官)の記憶とメモに基づいて行なわれるものであり、日時の経過に伴いその記憶が減退し、或いは右のメモが消失しないとも限らないこと及び更正申立てを無制限に認めることは段階的に行なわれることを前提とする民訴手続の安定性を著しく害する危険性を伴うこと等の諸事情に鑑みると少なくとも本件申立てのように、調書の更正申立てに係る内容が準備書面の陳述の有無という必ずしも明白な誤謬とはいえないものについての申立ては、当該口頭弁論調書の作成後可及的速やかに行うべきものと解される。ところが、抗告人は、本件口頭弁論期日後前記民訴法所定の異議を述べることもないまま、当該事件の控訴審判決が確定した後に至って、前記のような本件申立てを行ったものであり、右に述べた調書作成の事情等に徴すると、本件申立てはもはや時機に遅れたものといわざるを得ない。

三以上によれば、本件の申立ては、いずれにしても不適法なものというべきであるから、これを却下すべきであり、これと結論において同旨の原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。よって、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官服部正明 裁判官林輝 裁判官鈴木敏之)

別紙抗告の趣旨<省略>

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